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2006年06月07日(水曜日)付

[日期:2006-12-21] 来源:  作者: [字体: ]
 この時季に、しきりに思い浮かぶ中村草田男の一句がある。〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉。木々の緑と、幼子の白い小さな歯との取り合わせが鮮やかだ。そして、人であれ、木々であれ、命を次の世代に引き継いでゆくことの貴さや、生命への深い畏(おそ)れが感じられる。

 草田男は、人間探求派と称された。この句は、父であるか母であるか、あるいはまた親であるか否かをも超えた、人間の絶唱のようだ。

 12人の子を産んだ歌人・与謝野晶子は、こう詠んだ。「いとしき、いとしき我が子らよ、世に生れしは幸ひか、誰れか是れを『否』と云はん」「人の身にして己が児を/愛することは、天地(あめつち)の/成しのままなる心なり」(『与謝野晶子全集』文泉堂書店)。  

 幼い娘を亡くして間もない母親が、近所の家の男児を遺棄した疑いで秋田県警に逮捕された。その疑いが事実であるとするならば、これまで聞いたことのないような陰惨な事件だ。

 県警は、藤里町に住むこの母親の娘について、近くの川で水死したと認定した。母親は、近所に手作りのビラをはっていた。娘の写真の上に「知りませんか?」と書かれたビラからは、子を失った悲しみや必死な思いが読み取れる。その母親が逮捕されるとは異様だが、男児の殺害については、捜査は途上のようだ。

 原生林の広がる白神山地を望み、清流の流れる現地でも、日に日に緑が濃くなっているのだろう。北国に遅い春が来て、やがて万緑に染まってゆく。芽生えた命が日に日に大きく育ってゆく季節なのに、現実はあまりにも残酷だ。


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