扉が開く。足を踏み入れる。もし、そこに床がなかったとしたら——。エレベーターに乗る時にふと浮かぶ、現実には起こりえないはずの妄想だ。
扉が開く。中から外へ出ようとする。出終わらないうちに床が上がる。こんなありえそうもないことが現実に起きた。東京都港区のマンションの12階で、エレベーターから出ようとした高校生が、内部の床と12階の天井に挟まれて亡くなった。16歳の若さで命を絶たれた市川大輔さんと家族の無念さは、察するにあまりある。
エレベーターは、扉が閉まりきらないと動かない仕組みにするよう法令で定められている。あってはならないはずのことが起きた原因を早く突き止めなければ、安心して利用できない。
それなのに、このエレベーターを製造し、昨春まで保守を担当していた「シンドラーエレベータ」社の対応が不可解だ。マンションの住民に説明しようとしない。「現在進んでいる捜査に支障をきたす理由がある」と拒んだという。
自社のホームページには、こんなくだりがある。「この事故がエレベーターの設計や設備によるものではない事を確信している」。そうなら、確信する根拠を示すべきではないか。昨日、警視庁が強制捜査に乗り出した。
ある地下鉄の駅の長いエスカレーターで、この会社の名を見かけた。どの社のものであれ、下っている時に突然止まれば、多くの人がのめって惨事になりかねない。駅やマンションに限らず、昇降機は現代社会に欠かせない。それが凶器になるようでは、暮らしは足元から崩れてしまう。

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