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日本語の難しさ ―授受動詞

[日期:2006-12-18] 来源:  作者: [字体: ]
どんな外国語でも、勉強を始めると「易しい言葉」というものはないことが分かります。しかし、全部が難しいわけではありません。難しいところは、一部分です。そして、この「難しいところ」が分かれば、その外国語の勉強はかなり進みます。
そこで、今号からしばらく、「日本語の難しいところ」について、考えてみようと思います。

授受動詞の難しさ
 日本語の勉強を始めた人が、最初に難しいと感じる項目は、「あげる」「もらう」「くれる」などの授受動詞の使い方ではないでしょうか。
かなり上級レベルの学習者でも、授受動詞の使い方がよく分かっていないことがあります。これは、授受動詞の使い方を最初にきちんと理解せずに、先へ進んでしまったためです。

「あげる」と「もらう」の特別な性質
 授受動詞は、ほかの動詞とは違い、ちょっと特別な性質を持っています。まず、「もらう」と「あげる」について考えてみましょう。
例文A、Bを比較してみてください。

A:本田さんが、柳さんに、プレゼントをもらいました。
B:柳さんが、本田さんに、プレゼントをあげました。

AとBの文はどちらも、プレゼントが、柳から本田に移動したことを表しています。この二つの文が表す「事実」は同じですが、この二つの文が「表現」していることは同じではありません。つまり、例文Aの話し手は、本田さんを文の中心にしています。「本田さんがもらった」ということを言いたいのです。それに対して、例文Bの話し手は柳さんを文の中心にして、「柳さんがあげた」ことを話したいのです。このように、「もらう」と「あげる」という動詞には、主語を文の中心にする、という働きがあります。そして、「物」が「主語=文の中心」に入った時は「もらう」を使い、「物」が「主語=文の中心」から出た時は「あげる」を使うのです。
 次に、例文CとDを見てください

C:私が、柳さんに、プレゼントをもらいました。
D:柳さんが、私に、プレゼントをあげました。(×)

この二つの文には「私」という話し手が、文中に登場しています。話し手が文中にある時、話し手が文の中心になります。つまり、「私」が文の中心になるのです。ところで、上で述べたように、「もらう」という動詞には、主語を中心にする働きがあります。例文Cでは、話し手の「私」が主語なので、文の中心は一つです。ところが、例文Dは、文の中心が、文の中心の「私」と、文の主語の「柳さん」の二つになってしまいます。だから、この例文Dは日本語として、不自然で正しくない文になってしまうのです。
 このような性質は、授受動詞ではない動詞にはありません。例えば、「渡す」という動詞は、「物」の移動を表すという点で授受動詞に似ていますが、主語を文の中心にする、という働きはありません。だから、次に挙げる例文E、Fは、どちらも正しい文です。

E:私が、安さんに、プレゼントを渡しました。
F:安さんが、私に、プレゼントを渡しました。

「くれる」の意味

 日本語では例文Dのような場合、「あげる」が使えません。しかし、それでは不便な場合があります。ほかの人を主語にして、その人から私への、物の移動を表したい場合です。この時、「あげる」の代わりに使う授受動詞があります。それが、「くれる」です。

G:安さんが、私に、プレゼントをくれました。

このように「くれる」は、助詞「に」の前の言葉が「私」の時にだけ使う動詞です(注)。助詞「に」の前が、「私」でない時は、例文Bのように「あげる」を使わなければなりません。初級レベルの学習者が、授受動詞を学ぶ時に混乱するのは、移動の方向の違う「あげる」「もらう」という2種類の動詞のほかに、もう一つ「くれる」という動詞があるからです。「あげる」「もらう」を単に物の移動の方向を表す動詞だと教えると、「くれる」の意味が理解できません。「あげる」「もらう」には、移動の方向を表すほかに、主語を文の中心にする、という働きがあることを教える必要があるのです。
「あげる」「もらう」「くれる」の使い分けについて、上のように順序よく、論理的に説明すれば、生徒はその意味と使い方が理解できるでしょう。

(注)助詞「に」の前の言葉が、「私」ではなくても、「私」に非常に近い関係の人(子供や兄弟など)ならば使うことができます。

「AがBにあげる」は、A→Bと物が移動することを表し、「AがBにもらう」は、B→Aと物が移動することを表します。そして、「Aが(私に)くれる」は、A→私、と物が移動することを表し、「あげる」と「もらう」は主語を文の中心にする性質があることを前回、説明しました。
 今回は、「~てあげる」「~てもらう」「~てくれる」という表現を考えてみましょう。「動詞テ形(連用形)+あげる/もらう/くれる」という表現です。この表現は、会話の中で非常によく使われます。主語「Aさん」と動詞「読む」の関係に注意しながら、下の例文を見てみましょう。

例1:Aさんが本を読む。
例2:AさんがBさんに本を読んであげる。
例3:AさんがBさんに本を読んでもらう。
例4:Aさんが(私に)本を読んでくれる。

例1は、主語「Aさん」が「読む」という動作をしていることを表現しています。例2も、例1と同じように、「Aさん」が「読む」という動作をしています。しかし、Aさんは、自分のために読むのではなく、Bさんのために読んでいます。また、例4も、「読む」という動作をするのはAさんです。ただし、「私」のために「読む」という動作をしています。ところが、例3では、本を「読む」のは、主語のAさんではなくBさんです。「Bさん」が、Aさんのために、本を読んでいるのです。
 「あげる」「もらう」を物の移動に使う時、物の移動は、「あげる」の場合「A→B」で、「もらう」の場合は「A←B」と反対になりました。それと同じように、「~てあげる」と「~てもらう」では、動作をする人が入れ替わります。つまり、「~てあげる」は、「主語A(動作主)→B(受け手)」、「~てもらう」は、「主語A(受け手)←B(動作主)」となるのです。つまり、「~てもらう」は、主語が動作をするのではなく、「ほかの人が主語のために動作をする」という表現です。そのため、生徒にとって、この「~てもらう」という表現は、理解するのも使いこなすのも難しいのです。


「~てもらう」の動作主
 次の文を見て、誰が動作をするのかを考えてみてください。

例5:田中さんが先生に中国語を教えてもらう。
例6:劉さんが先生に本を貸してもらう。
例7:楊さんが先生にスピーチをしてもらう。
例8:金さんが先生に餃子を食べてもらう。
 
 分かりましたか。動作をするのは、すべて「先生」です。
 例5は、先生が(主語=田中さんのために)教えます。田中さんは習う人です。例6は、先生が(主語=劉さんのために)本を貸します。劉さんは借りる人です。例7は、先生がスピーチをします。それは、楊さんが「先生、私たちのためにスピーチをしてください」と頼んだから、先生が(主語=楊さんのために)スピーチをするのです。例8は、先生が餃子を食べます。それは、金さんが「先生、餃子をどうぞ」と勧めたから、先生が(金さんの好意に応えるために)食べるのです。
 「AさんがBさんに~てもらう」という文は、「Aさんが何かをするのではなく、AさんがBさんに頼んで、AさんのためにBさんが何かをする」という意味になります。「~てもらう」を、「AがBに~てあげる」「Aが(私に)~てくれる」という文と比べて、動作をする人がどのように入れ替わっているか、生徒によく説明してください。



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